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2012.08.02

より良いマウスガードを作製するために <マウスガード研修会>

7月1日(日)午後2時から兵歯会館5階ホールで「歯科医院だからできるマウスガードとは おさえるべきポイント」という演題で、講師に前田芳信大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座教授を招き、マウスガード研修会が開催された。講演会には梅雨時の鬱陶しい天気にもかかわらず約100人の会員が参加した。これは昨年の6月にスポーツ基本法が公布され「スポーツに関する科学的研究の推進等」の第16条に「歯学」の文字が追加されるなど、スポーツ歯学に注目が集まっていることを受けたもので、マウスガードの普及啓発の一環として企画された。

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熱心に聞き入る受講者

講演会は中道学校歯科保健担当理事の司会で進行し、釜谷副会長が「本年3月に文部科学省において策定されたスポーツ基本計画の中に、『学校とスポーツドクター等地域の医療機関の専門家等との連携促進』というものが明記され、スポーツ現場、特に格闘やコンタクトスポーツにおいて歯科分野の技術の必要性がこれからより高まってこようとしている。本年度、新学習指導要領において中学校で武道が必須となった。特に身体的接触のある柔道などにおいては、口腔外傷のみならず頭部の打撲の危険性がある。兵歯としてはスポーツの指導者の研修会などに出向き、マウスガードの重要性を啓発していきたいと考えているが、普及活動の中でまず私たち歯科医師がマウスガードについて理解し勉強しなければならない。また市販されているようなものが何故いけないのか、歯科医院で作製したものがどういう効果があるのかを患者さんに説明できなければならないと思っている。前田教授にはマウスガード製作用の DVD の作製も依頼している。本日の講演と共に明日からの診療の場に役立てていただきたい」とあいさつした。

講演では前田教授が、時折り現在作製中のマウスガード製作用 DVD の映像を交えながら講演された。
マウスガードが敬遠される三大要因としては(1)異物感(2)発音障害(3)呼吸障害が挙げられる。異物感に関しては最初は多少なり認められるが、徐々に慣れてくるものである。発音障害と呼吸障害に関しては歯科医師がきちんと作れば起こることはない。良いマウスガードのポイントは適合がいいこと・外形が運動を邪魔しないこと(大きな声でい・あ・うと言っても落ちてこない)・楽に噛める咬合に集約される。

適合を良くするためには(1)印象:作業模型に必要最小限な範囲でかまわない。口蓋はいらない(2)作業模型:歯頚部のアンダーカットで維持させるので同部の気泡をきれいにはじく。十分乾燥していない模型、不適切な分離剤の使用によりシートの圧接時に空気が模型を通過できずに適合があまくなる。不必要なアンダーカットの処理(3)シート成形の条件:成形可能な適正温度(80~120℃)まで加熱する。過熱しない。可能な限り早く成形する。シートの垂れによる厚みの変化を予測する(外傷の多い前歯部唇側面の厚みが必要)。模型からの撤去時に変形しやすくなったり、使用中の経時的な変形をきたすので急冷しない(4)トリミングの条件:ハサミで余分なシートをカットする。外形線に沿って模型面に対して垂直(バットジョイント)にトリミングする。

外形は唇頬側面は骨隆起部まで口蓋側は歯頚部(最初は1~2mm程度拡くし、最終的に歯頚部に添わせる)まで、後縁は6番まで(7番は異物感の軽減および年齢的に萠出していない場合もあるため。維持力にあまり大差がない)
咬合に関しては(1)中心咬合位で平均値咬合器に装着する(2)前歯歯頚部距離を3mm増やす(安静空隙内、臼歯部で1~2mm)切歯指導ピン部で4~5mm挙上(3)軽く噛んだときに臼歯部のみ接触し、噛みしめた状態で前歯が接触するように調整する。

以上のことを守ることで選手が自分で作製していたマウスフォームドタイプとは全然違うと言ってもらえるような、より良いマウスガードを作製することができる。
マウスガードの効果としては、スポーツ歯科医学会で統計に基づいたエビデンスとしてマウスガード装着、非装着での外傷の発生率において有意な差が認められている。すなわち装着することで外傷の予防・軽減につながることが認められる。脳震盪の予防・軽減、運動能力の向上なども効果として考えられるが EBM に裏打ちされておらず却って誤解を受けマウスガードの普及に妨げとなることも考えられるので公言すべきではないと考える。
マウスガードの管理として、保管は雑菌の繁殖を防ぐために水洗と、特に乾燥が重要である。スポーツドリンクを飲んだ後でマウスガードを装着すると歯面の pH が下がるというデータが出ているので装着前の口腔清掃指導は必要であると話された。

講演される前田教授 質疑応答では、歯列矯正時のマルチブラケットを装着している患者の場合の製作法はとの質問に対し、カテーテルのチューブのような細いチューブに樋状に切開を入れてワイヤーに沿わせてカバーしてから印象を採っている。保管法として石膏模型などに戻して保管するのがいいのか、そのままフリーの状態で保管するのがいいのかとの質問に対して、石膏模型に戻して保管することは変形のことを考えるといいが模型面のカビの発生など衛生面に注意が必要である。咬合調整の仕方はとの質問では、水平位よりも使用時に近い立った状態での咬合調整を行うべきであると回答された。
活発な質疑応答の後、閉会となった。

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講演される前田教授



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